個人事業主として起業すると、自身のビジネス分野の知識や技術だけではなく、経理や会計の知識も必要になります。いままで経理や会計をやったことがない初心者にとってはとても難しいもののように感じてしまうこともあるでしょう。そこで、起業したばかりの個人事業主が知っておきたい経理のやり方や会計の基礎、インボイス制度の個人事業主への影響について解説していきます。知っておくと便利な最新のおすすめ会計ソフトも併せて紹介しますので、起業したばかりの人や、これから起業する予定の人は必見です。
個人事業主の経理で行うこと
個人事業主が経理作業を自分で行う場合、日々の帳簿付けから毎月、毎年行うべき作業やその内容を知る必要があります。具体的にはどのような作業を行わなければならないのか、経理で使用される用語の解説とともに見ていきます。
希望者は青色申告承認申請書を提出する
ネットショップの開業などで個人事業主として起業する場合、青色申告の希望者は開業届と同時に青色申告承認申請書を提出しましょう。確定申告には青色申告と白色申告の2種類があり、青色申告ができると特別控除が受けられるなどのメリットがあります。また、初年度は白色申告として、翌年以降に青色申告とすることも可能です。
青色申告承認申請書は提出期限があり、青色申告を希望する年の3月15日までに提出する必要があります。起業した年から青色申告とする場合、開業のタイミングによって提出期限が異なります。
- 開業が1月1日~1月15日までの場合:3月15日まで
- 開業が1月16日以降の場合:事業開始から2か月以内
また、青色申告と白色申告の特徴は以下のとおりです。
青色申告
青色申告とは、事前に青色申告承認申請書を提出した人が行うことのできる確定申告です。
以下のようなメリットがあります。
- 最大65万円の特別控除が受けられる
- 赤字を最長3年間繰り越しできる
- 家族への給料を経費に計上できる
- 30万円未満の減価償却資産(経年劣化する固定資産)を取得した際、費用を一括で経費にできる(2024年3月31日までの特例)
- 自宅で事業を行っている場合、事業に使用している割合分の電気代・家賃などの固定費を経費に計上できる
メリットが多い反面、帳簿は複式簿記のため単式簿記に比べて複雑である、確定申告時の提出書類が多いなど手続きが複雑というデメリットがあります。
白色申告
白色申告とは、青色申告をしない事業者が行う確定申告です。以下のメリットがあります。
- 事前の手続きが不要
- 単式簿記で帳簿付けが簡単
- 自宅で事業を行っている場合、業務・仕事で利用する部分の割合がおおむね50%超の家事関連費を経費に計上できる
手続きが簡易化できるため経理の知識がない人にも安心の申告方法ですが、青色申告にあるような控除などのメリットが受けられません。
個人事業主が行う日々の経理
個人事業主が毎日行う経理作業は以下の通りです。
帳簿付け
白色申告の場合:簡易化された、単式簿記と呼ばれる方法で記帳します。単式簿記は家計簿や預金通帳のように、一つの取引でお金の増減の一面のみを記載する方法で、売上や仕入、経費などの項目を記入します。納品書や請求書の控えにより内容が確認できる取引に関しては、日々の売り上げの合計金額を一括記載することができます。
青色申告の場合:複式簿記と呼ばれ、一つの取引を原因(借方科目とその金額)と結果(貸方科目とその金額)に振り分ける帳簿の記載方法です。
月に一度とするなど、まとめて記載することも可能です。しかし、取引数が増えたりお金の動きが多かったりする場合、記載漏れの原因にもなります。帳簿付けはこまめに行うことで収支の金額が合わないなどの経理の問題を避けることができます。
請求書発行
取引ごとに請求書を発行する場合、納品時または納品後に請求書を発行します。
領収書の保管
領収書は、経費を計上するうえで欠かせない書類です。領収書の提出義務はありませんが、税務署からの問い合わせがあった場合などに提示できるよう、わかりやすく整理しておく必要があります。また、領収書には以下の保管義務期間があることも知っておくことが大切です。
- 青色申告:7年間
- 白色申告:5年間
見積書、請求書、納品書の保管
発行した見積書や請求書、納品書は証憑(しょうひょう)書類と呼ばれ、取引の証明書となるため、原本を保管しておきます。これらの書類にも保管義務があり、個人事業主は5年間保管しなければなりません。
個人事業主が行う毎月の経理
1か月分の収支の確認
1か月分の取引が漏れなく帳簿に記載されているかを確認します。毎月帳簿の記載内容を確認しておくことで、確定申告時に金額ミスが判明し1年分の書類を見直すといった作業を防ぐことにつながります。また毎月キャッシュフローもあわせて確認し、今後の支払いに必要な金額が十分に確保されているか、売掛金が多すぎていないかを確認してください。早めに対策を取り黒字倒産などのリスクを未然に防ぐことが大切です。
通帳の記帳やオンラインでの残高確認
月末には通帳を記帳したりオンラインで確認したりして、銀行口座の残高をチェックします。発行した請求書の金額と実際に支払われた金額が合っているか、帳簿に記載した金額と実際の取引の金額が合っているかなどを確認します。
請求書発行
取引先との取り決めによっては、月末に1か月分の請求書を送るケースもあります。毎月の請求書発行を忘れずに行いましょう。また取引ごとに請求書を発行している場合は、請求書の送付漏れがないか確認します。
支払い確認
月に一度必ず確認したいのは、受領した請求書の支払いを済ませているかどうかです。万が一、支払い漏れがあった場合にはすみやかに支払いを済ませましょう。
個人事業主が行う毎年の経理
棚卸し
棚卸しは年末に行います。その年に仕入れた商品の在庫数を数えて棚卸表に記録する作業です。飲食店やたくさんの商品を扱う小売店などでは毎月棚卸しを行うこともあります。
帳簿の確認
作成した帳簿に間違いがないか確認します。この帳簿を元に決算書を作成するため、帳簿に間違いがあると決算書にも間違いが発生してしまいます。正確な決算書を作成するためにも帳簿の確認を忘れずに行いましょう。
青色申告の場合は決算書作成
青色申告を選択した場合には、以下の2つの書類を青色申告決算書として作成します。
- 損益計算書:収入や経費をもとに所得を算出した書類
- 貸借対照表(10万円の特別控除の場合を除く):期首(通常1月1日)と期末(通常12月31日)の資産、負債、資本(純資産)をもとに、事業の財政状況示した書類
白色申告の場合は収支内訳書作成
収支内訳書とは、勘定科目ごとに経費や売り上げなどを記載する書類です。単式簿記の内容をもとに記載します。
確定申告に必要な書類の準備と提出
確定申告には、青色申告、白色申告とも共通の確定申告書に記入を行います。この確定申告書以外に、以下の書類が必要となります。
- マイナンバーカード
- マイナンバーカードがない場合:税務署や確定申告会場で申請する場合はマイナンバーが確認できる書類と免許証やパスポートなどの本人確認書類、e-Taxの「ID・パスワード方式」を使う場合は事前に税務署で本人確認を行い、発行されたIDとパスワード方式でログインの必要あり
- 所得証明:青色申告は青色申告決算書、白色申告は収支内訳書
- 銀行口座がわかるもの:還付申告を受ける場合のみ、還付金の振り込みを受け取る銀行口座情報
- 控除の証明書類:医療控除や社会保険料控除など控除を受ける場合のみ、明細書などの証明書
原則として毎年、2月16日~3月15日の間に確定申告を行わなければなりません。申告の内容によって必要な書類が変わるため、早めに確定申告書類を準備しておくと手続きもスムーズで安心です。
従業員がいる場合は年末調整などの手続きも必要
従業員やアルバイトを雇っている個人事業主の場合、年末調整をして給与支払報告書や源泉徴収票を発行する必要がありますので、忘れずに手続きしましょう。
e-Taxとは?
e-Taxとは、毎年の確定申告や納税を自宅のパソコンやスマートフォンから行えるシステムのことです。国税電子申告・納税システムとも呼ばれ、2004年から全国で運用開始となった国税庁のシステムです。e-Taxを使えば以下の手続きをオンラインで完了させられます。
- 所得税、消費税、贈与税、印紙税、酒税などの国税の申告
- 開業届や所得税青色申告承認申請書などの届出や申請
- 源泉徴収票や不動産使用料等の支払調書などの法的調書の作成と提出
- 税金の納付
e-Taxは、国税庁が提供するe-Taxのウェブサイトから利用できますが、会計ソフトをe-Tax電子申告に対応したものを使えば、入力の手間を省けて確定申告書類もスムーズに作成できます。
個人事業主の経理をエクセルで
個人事業主の経理作業は、エクセルを使って行えます。経理のためのエクセルシートを自作する場合はエクセルの技術や会計の知識が必要ですが、会計ソフトのウェブサイトなどで個人事業主の経理向けのエクセルテンプレートをダウンロードすることもできます。
エクセルで個人事業主の経理を行うメリット
- エクセルを使える環境なら初期投資が要らない
- データの共有・移行がしやすい
エクセルで個人事業主の経理を行うデメリット
- テンプレートを使わない場合は自作しなければならない
- エクセルの知識がないとテンプレートをカスタマイズしにくい
- 法改正があった場合は自分でテンプレートを修正しなければならない
エクセルや会計の知識があったり、既存のテンプレートを使用したりする場合は、容易にエクセルで経理業務を行えます。自分が使いやすいようにカスタマイズもできて初期投資も不要です。しかし、エクセルに使い慣れていない、経理に詳しくなく必要な項目がわからない場合は会計ソフトに頼ると経理業務がスムーズになります。
個人事業主の経理に使える会計ソフトのおすすめ3選
個人事業の経理の初心者にとって、会計ソフトは心強い味方となります。日本でおすすめの会計ソフトは以下の3つです。
- freee:近年注目度が上がっている会計ソフトです。使いやすいインターフェイスが特徴で、初めての人でも質問に答える形式で経理から確定申告書類まで作成できます。
- マネーフォワード:経理業務を初めて行う人から、簿記の知識のある人にも人気のある使える会計ソフトです。一部機能は無料で使えます。
- やよいの青色申告オンライン:初年度無料で使える会計ソフトで、初期費用を抑えたい、ソフトへの投資は内容を試してからにしたい人におすすめです。
会計ソフトを利用するメリット
- 初心者でも使いやすい
- 法改正に伴い変更が加えられる
- 計算ミスや入力ミスを見つけやすい
- e-Taxに対応しているソフトもある
- サポートが受けられる
会計ソフトを利用するデメリット
- 費用がかかる
- ソフトの使い方を覚えなければならない
- 通信環境が必要
個人事業主も経理代行を利用できる
自分で経理業務を行うことに不安があるという人は、個人事業主の経理を代わりに行ってくれる経理代行を利用するのも良いでしょう。経理代行を利用するメリットとデメリット、費用の相場は以下の通りです。
個人事業主が経理代行を利用するメリット
- 経理に割く時間を節約でき、本来の事業に集中できる
- 経理のミスを防げる
- 専門家のアドバイスを受けられる
個人事業主が経理代行を利用するデメリット
- 費用がかかる
- 経理の知識やノウハウを蓄積できない
- 情報漏洩のリスクがある
個人事業主の経理代行の相場
経理代行は、どのような内容を依頼するかで相場が変動します。経理代行の一般的な内容と相場は以下の通りです。
記帳業務
記帳業務とは、帳簿記入や経費計上など、日々の取引に関する業務のことです。
- 1件あたり80~100円程度
- 100件まで1万円程度
- 200件まで1万5千円程度
- 300件まで2万円程度
一か月あたりの定額制を設定している場合もあります。
決算書の作成
決算書の作成は、事業の規模によって変動する可能性があります。
- 決算書作成:5~20万円程度
インボイス制度とは?
インボイス制度とは、売手が買手に対して、正確な適用税率や消費税額等を伝えられるようにすることを目的としたもので、インボイス(適格請求書)を発行し、両者が保管することで消費税の仕入税額控除が適用され、二重課税を防ぐことができます。インボイス制度は正式には適格請求書等保存方式と呼ばれ、インボイスを発行できるのは適格請求書発行事業者のみで、事前に登録申請を行う必要があります。
インボイス制度による個人事業主への影響
2023年10月に導入されたインボイス制度は、登録は任意ではあるものの、個人事業主の経理業務にも影響を与えています。ここではインボイス制度が個人事業主に与える影響を詳しく見ていきましょう。
インボイス制度に登録することによる影響
- インボイス制度登録番号を取引先に通知する必要がある
- 電子インボイス(電子データ版の適格請求書)の送付や保管が可能になる
インボイス制度に登録しないことによる影響
- インボイスが発行できないにも関わらず取引先からインボイスの提出を求められる可能性がある
- 取引が減少する可能性がある。課税事業者との取引で仕入税額控除ができなくなり取引先の消費税負担が高くなるため、インボイス制度に登録していない個人事業主との取引を控えられてしまう可能性がある
- 消費税分の値下げを交渉をされる可能性がある
まとめ
個人事業主の経理作業は、白色申告か青色申告か、またインボイス制度に登録するかなどによって必要な内容が異なります。自分の事業に必要な経理作業は何かを確認し、正確に行いましょう。帳簿や請求書発行などにエクセルのテンプレートや会計ソフトを活用することで、より簡単に作業を行うこともできますので、自分に合った方法を見つけて計画的に経理作業を進めることをおすすめします。
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よくある質問
個人事業主の経理作業でおすすめのアプリは?
個人事業主の経理作業でおすすめのアプリは以下のとおりです。
これらのアプリはいわゆる「クラウド会計ソフト」のアプリ版です。アプリで表示されるデータにブラウザからもアクセスできるため、大変便利です。
会計ソフトは個人事業主の経理に必要?
会計ソフトがなくても個人事業主の経理はできます。会計の知識がある人やエクセルに慣れている人は、エクセルで帳簿管理をすることも可能です。個人事業を始めたばかりの人や、経理は初心者の人は、会計ソフトを使うと経理をスムーズに行えます。
個人事業主でも経費を計上できる?
個人事業主も経費を計上できます。経費に計上できるものは青色申告、白色申告で異なります。
青色申告の場合
- 家族への給料
- 30万円未満の減価償却資産(2024年3月31日までの特例)
- 自宅で事業を行っている場合、事業に使用している割合分の電気代・家賃などの固定費
白色申告の場合
- 自宅で事業を行っている場合、業務・仕事で利用する部分の割合がおおむね50%超の家事関連費
個人事業主の経費は、所得税の計算の際に事業の収入から差し引くことができ、節税にもつながるためおすすめです。
文:Masumi Murakami