ファッションへの情熱を、オリジナルアパレルブランドというかたちで世の中に届けるためには、着実な計画が必要です。ブランドの立ち上げは、途方もなく大きなプロジェクトに感じるかもしれませんが、何から始めて、どのように進めていけばよいのか整理することができれば、あとはステップに沿って一歩一歩行動するだけです。
この記事では、アパレルブランドを成功させるために必要な10のステップについて具体的に解説します。
アパレルブランドを立ち上げるまでの10のステップ
1. 事業計画を立てる
アパレルブランドの立ち上げには、他の事業で起業するのと同じように、事業計画を作成する必要があります。事業内容や目的のほかに、次の事項も考慮にいれましょう。
仕入れるか、つくるか決める
商品を仕入れるか、つくるかを決定します。
問屋や古着屋、海外などから買い付けた服を販売する場合は、セレクトショップという形態のブランドになります。制作にかけるコストや手間が省けますが、独自性が出しづらく、価格競争になりやすいというデメリットがあります。ブランドコンセプトにあった服を選ぶセンスと、商品の質を見極める目が必要です。
オリジナルの製品を製造する場合、製造コストがかかりますが、より独自性を出すことができ、顧客のニーズにも対応することができます。製造方法は大きく分けて以下の4つです。
- オンデマンド印刷(プリントオンデマンド):オンデマンド印刷業者を利用して、既製のTシャツやバッグなどに、自分のデザインを印刷する
- ハンドメイド:自分でデザインした製品をハンドメイドする
- 自社製造:社内スタッフの内製、または自社の工場で製造する
- 製造パートナー:縫製職人、縫製メーカー、縫製工場などに委託して、製品を製造する
財務計画をたてる
事業をスタートさせるにあたって、必要な費用を算定します。
まずは、ブランドをスタートさせるために必要な立ち上げ費用を見積り、資金の調達方法と必要な金額を書き出しましょう。
オンデマンド印刷でドロップシッピングを利用する場合、費用はゼロではじめられます。デザインソフトがあればネットで完結するため、作業場や工場を確保する必要はありません。
小規模で始めたい場合、自力で資金調達し、自己資金で立ち上げすることも可能です。自分でデザインし、注文に応じて縫製する場合、大量の在庫を持つ必要はありませんが、縫製機材や生地などの材料に事前投資が必要です。ほかにマーケティングのための費用や配送料、人件費なども必要になります。仕事場の家賃や電気代なども考慮にいれましょう。
製造パートナーと協力して、生産ラインを運営する場合は、相談の上見積もりをもらいましょう。縫製メーカーや縫製工場では通常最低注文数が設定されており、個人で作るよりも
さらに、多額の資金が必要となります。事業を始めたあとの経費や製造にかかる原価、想定売上なども書き出します。どれくらい売上が立てば初期費用を回収できるのか、どういったキャッシュフローになるかを予測しましょう。
事業形態を決める
開業にあたって、個人事業主になるか、法人を設立するかを決め、必要な手続きをとりましょう。それぞれ次のような特徴があります。
- 個人事業主:個人事業主は、開業届を提出するだけでスタートできます。開業に費用はかからず、経理や税務の手続きも比較的簡単です。ただし、法人と比較して社会的信用度が低いため、取引先や金融機関から信用を得にくく、資金調達の際に審査で不利になるといったデメリットがあります。利益が一定より大きくなると、法人よりも所得税率が割高になるので、最初は個人事業主から始めて、一定の規模まで成長したら法人化するという人も多いです。
- 法人:法人設立には、登記費用や定款作成費用が必要で、維持費用もかかります。取引先や金融機関からの信用は高いため、融資が得やすいという特徴があります。初期段階でまとまった額の資金調達が必要な人には法人の設立をおすすめします。自分に適した会社形態を選びましょう。
2. ブランドを構築する
ブランドコンセプトを決める
ブランド構築にあたっては、次の項目を考え、自分がどのようなブランドを作りたいかを明確にしましょう。
- ブランド名:ブランドアイデンティティを象徴する名前をつけましょう。
- キャッチコピー:ブランドを端的に表すメッセージを決めましょう。
- 価値観:ブランドがどんな価値観で、どんな問題の解決を使命としているか、どんなメッセージを発信したいのかを明確にします。たとえば、サステナビリティ、個性の尊重、快適さなど、大切にしている価値観をあげてみましょう。
- 独自性:競合分析をし、差別化できるポイントを見つけます。デザイン、素材、製造プロセス、価格帯など、ブランドの強みを明確にします。
- ターゲット層:年齢、性別、ライフスタイルなど、どういった人に着てほしいブランドなのかを考えます。
- ストーリー:ブランドの立ち上げの動機やインスピレーションの源など、ブランドに込められた背景や物語を言語化します。
たとえば、知的障害のある作家が手がけたアートを活かしたアパレル用品を展開するHERALBONY(ヘラルボニー)は、障害を敢えて特性と言い切り、世の中における障害のイメージを変えることを目指しています。創業者は双子の松田崇弥さんと文登さんで、ブランド名の「ヘラルボニー」は、二人のお兄さんであり、自閉症の翔太さんが、ノートの端に書いた言葉に由来しているといいます。キャッチコピーは「異彩を、放て。」です。
ブランドガイドラインをまとめる
ブランドガイドラインとは、ブランドのイメージを一貫したものにするための指針やルールをまとめたものです。コンセプトにあわせて、ブランドがどのようなイメージを持たれるべきかを考え、そのイメージに合ったブランドロゴ、ブランドカラー、ブランドフォントなど、ブランドのデザイン表現に関しての基本的なルールをまとめましょう。
ブランドガイドラインを、ウェブサイトのデザイン、広告、SNSなど、すべてのビジュアルに適用することで、ブランドに一貫性が生まれます。
SNSアカウントの開設
並行して公式SNSアカウントを開設し、積極的に活用しましょう。投稿では、デザインのインスピレーションや製作工程を紹介し、ブランドストーリーを語って、ブランドらしさを発信するよう心掛けてください。
3. 生地を調達する
生地の調達
生地を直接触ったり、比較したりしながら探したい場合は、問屋の小売店舗で生地を購入することができます。東京では日暮里繊維街、大阪では中央区にある船場センタービルが生地の問屋街として有名です。
オンラインで生地が調達できるサイトには次が挙げられます。
- 生地問屋ドットコム:国内の生地の在庫が格安で販売されている。素材や用途、目的などから簡単に生地が検索できる
- YAMATOMI(ヤマトミ):老舗生地問屋のECサイト
- 有限会社福田織物:静岡県掛川市にあるテキスタイルメーカーのECサイト
- SUPER DELIVERY(スーパーデリバリー):アパレルや雑貨を中心に、幅広いジャンルの取り揃えがある卸・仕入れサイト。生地・反物などの素材の販売にも対応している
またファッション、生地、素材、繊維などの展示会をたずねることで、求めている生地に出会えるかもしれません。日本各地の生地メーカー、海外の生地メーカーが出展している展示会であれば、ユニークな生地に出会える可能性も高まります。
古着などの生地をリメイクするという方法もあります。たとえば、keniamarilia(ケニアマリリア)は、「着物文化の永続」を目標として掲げ、上質な着物の生地を丁寧にリメイクした、1点もののアイテムで人気を集めています。
テキスタイルデザイン
オリジナリティを追求するために、生地からつくるという選択肢もあります。小ロットでのオリジナルの生地の生産に対応している業者には以下があります。
- オリジナルプリント.jp:生地を選んでオリジナルのデザインをプリントするサービスです。
- ファブリックデザイン:生地にオリジナルのデザインをプリントするサービスです。それぞれのアイテムに適した生地が提案されています。
- 安田織物株式会社:オリジナルの生地の生産に対応しています。
4. 製造ラインを整える
実際にどうやって製品をつくるか考え、製造ラインを整えましょう。
1点もののアイテムであれば、最もシンプルなのは、自分でデザインして、自分で型紙をつくり、自分で縫製して仕上げるという方法です。縫製の専門知識や技術が必要となります。
十分な知識がないときは、職人に相談したり、縫製を外注したりすることで、製品を完成させることができます。アパレルの製品づくりを支援している縫製などのサービスには次が挙げられます。
- nutte(ヌッテ):1500人以上のプロの縫製職人に、縫製を依頼できるマッチングサービスです。職人と相談しながら小ロットで服を作っていくことができます。
- テラオエフ:アパレルの製品づくり、ブランド立ち上げ支援サービスです。
- フクル:繊維産地として有名な群馬県桐生市を拠点とし、アパレル製品製造の始めから終わりまでサポートを提供しているサービスです。
- SD (エスディー )ファクトリー:仕入れサイトSUPER DELIVERYの運営会社であるラクーンコマースが手がける、アパレルメーカーと縫製工場をつなぐ無料のマッチングサイトです。サイトから工場に問い合わせができ、そのあとは、工場との直接相談となります。取引の仲介や決済機能などの提供はありません。
- 株式会社小倉メリヤス製造所:創業1929年の老舗縫製工場です。ブランドの立ち上げ支援から、縫製まで行っています。
5. 季節ごとのコレクションを計画する
ファッション界は季節のサイクルに合わせて稼働しています。
- スプリング・シーズン(2〜4月)
- サマー・シーズン(5〜7月)
- オータム・シーズン(8〜10月)
- ウィンター・シーズン(11〜1月)
それぞれのシーズンでコレクションを発表するには、販売開始予定日から逆算して、デザイン、製造、プロモーションのスケジュールを作成しましょう。
シーズンレスアイテム
すべてのコレクションがシーズンに依存する必要はありません。日本でも、季節を問わずに使えるアイテムが人気を集めています。
ベストセラー商品は、シーズンに関係なく長く販売されることがあります。シャツといったベーシックなアイテムは、シーズンごとに色や素材を変更しながら長く販売されることが多いです。
6. 小売店で販売してもらう
自分の店舗がなくても、他の小売店を通じて自社のアパレルを販売することができます。主に次の2つの方法があります。
委託販売
委託販売とは、小売店に商品を預かってもらってその販売を代行してもらう方法です。実店舗で自社商品を展示し、販売を代行してもらうことができます。委託先の店舗側は在庫リスクを負わず、ブランド側は商品が売れたときにのみ収益を得ることができます。販売価格はブランド側が決定します。
卸売
卸売とは、小売店に一定数量の商品をまるごと買い取ってもらう方法です。店舗にとってリスクが高いため、まずは委託販売で実績を積むことで、信頼を築くことが重要です。販売価格は小売店が決定します。
委託販売の場合も卸売の場合も、どのような客層が、どの程度の予算で買い物する店舗かを調べ、なるべく自分のブランドのイメージと価格帯にあった小売店を選定するようにしましょう。店舗へのアプローチは慎重に行ってください。
7. ECサイトを開設する
アパレルブランド、特にオンラインでの販売が中心のネットアパレルブランドにとって、ECサイトはただの販売チャネルというだけでなく、ルックブックの機能も備えています。ブランドコンセプトにしたがって、ECサイトを構築しましょう。
ShopifyのようなECサイト構築ツールを使うと、デザインやコーディングのスキルがなくても、簡単にECサイトを開設することができます。まずは、ブランドに合ったテンプレートを選びましょう。ファッションブランド向けのテンプレートは、シンプルで使いやすいデザインのものが多く用意されており、スマートフォンでの閲覧にも最適化されています。テンプレートを選んだら、ロゴやカラーなどをブランドに合わせてカスタマイズしましょう。
商品説明ページ
ECサイトでは、商品説明ページが購入の決め手になります。
写真は非常に重要です。ブランドの雰囲気にあわせて、商品の魅力を最大限に引き出した写真を用意してください。掲載するプロに依頼する予算がない場合は、照明や背景などを工夫して、商品撮影を行いましょう。
商品説明には、価格のほかに、サイズやフィット感、素材、洗濯の可否といった詳細も記載します。同じページに、ほかの顧客からのレビューを表示するというのもひとつのアイディアです。
ECサイトは、Instagram(インスタグラム)やFacebook(フェイスブック)などの販売チャネルや、Etsy(エッツィ)などのマーケットプレイスと連携することで、国内外の顧客層にアピールすることができます。
8. マーケティングを行う
新たなブランドが認知されるためには、戦略的なマーケティングが不可欠です。限られた予算でも、創造力を駆使して効果的に注目を集める方法はたくさんあります。ここでは、初心者でも取り組みやすいマーケティング方法をご紹介します。
コンテンツマーケティング
ブログ記事や動画を利用したコンテンツマーケティングで、ブランドの魅力を伝えましょう。検索エンジンやSNSを通じてのECサイトへのアクセスを増加させることで、ブランドの認知度が向上します。
SNSマーケティング
インスタグラムやX(エックス)、Tiktok(ティックトック)などのソーシャルメディアを活用したSNSマーケティングで、ブランドの露出を増やしましょう。インスタグラムは、ビジュアル重視のSNSなので、アパレルブランドと親和性が高いです。
ターゲットとなるオーディエンスに直接アプローチできるSNSは、フォロワーを増やし、ファンのコミュニティを形成するのに最適です。定期的に投稿を行い、ブランドの存在感を高めていきましょう。ライブ配信や、インフルエンサーとのコラボレーションなども、顧客の獲得に効果的です。
メールリストの構築
新商品を発表する前にメールリストを作成し、登録者に対してメルマガでキャンペーンや割引を提供しましょう。商品の発売前からファンを増やし、販売開始と同時に売上を伸ばすことができます。
SEO(検索エンジン最適化)対策
SEO対策を行い、ブランドサイトが検索エンジンで上位に表示されるように工夫しましょう。ECサイトへのアクセスが増え、より多くの顧客にリーチできます。
ロイヤリティプログラムの設定
顧客に対して長期的な関係を築き、リピート購入を促進するために、ロイヤリティプログラムを導入しましょう。購入ごとにポイントを付与し、そのポイントを割引や特典と交換できるようにする、特定の商品を予約して優先的に購入できるようにするなどの方法があります。
コラボレーション
異業種の別企業とコラボレーションを組み、キャンペーンを展開するのも効果的です。
9. 対面販売に挑戦する
アパレルブランドを成功させるためには、製品のクオリティだけでなく、どのように顧客にアプローチするかも重要です。ブランドが一定の認知度を得たら、対面販売の機会をつくることを検討しましょう。顧客と対面して販売することで、ターゲット顧客層に対する理解が深まると同時に、より多くの人々にブランドを知ってもらうチャンスになります。
まずは、イベントへのブース出店や、短期間のポップアップショップから始めてみましょう。一度対面販売を行うことで、実際に小売店舗を持つかどうかを判断する材料が得られます。また、ECサイトとはまた違った顧客にアプローチできるようになります。
たとえ、最終的に実店舗での販売を選ばなかったとしても、このプロセスを通じて得た顧客の声や市場の反応は、販売戦略に役立つ貴重な情報となります。
10. 業界のプロに学ぶ
成功するアパレルブランドを立ち上げるには、先輩たちの知識や経験から学ぶことが欠かせません。業界で成功しているブランドの事例やベストプラクティスを参考にすることで、ビジネスに必要な洞察を得ることができます。アパレル業界のプロがひらく講演会や勉強会などには積極的に参加し、学び続けましょう。
ファッション業界は非常にスピーディーで、トレンドが次々と移り変わる世界です。成功したファッションデザイナーの多くは、迅速な判断力や柔軟性を持つことの重要性を強調しています。短期間でのデザイン制作やプロジェクトの進行は、ブランドの成長にとって重要なスキルとなるでしょう。しかし同時に、自分のペースを守りながら、長期的な視野で学びを続け、より質の高い作品を生み出すことも求められます。
ブランドの商品は、常に他人の評価の対象となり、批判を受ける可能性もあります。自分の作品に自信を持ち続けることが成功への鍵です。批判を乗り越えた先には、自分のブランドに共感し、応援してくれる顧客がきっと存在するはずです。
まとめ
事業計画の策定から、ブランドの構築、製品の製造、そしてマーケティング戦略や対面販売の展開まで、すべてのプロセスが、ブランドの成功への第一歩です。それぞれのステップを計画的に進めることが、ブランドの確立と持続的な成長につながります。この記事を読んで、ブランド立ち上げの第一歩を踏み出しましょう。
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よくある質問
アパレルブランドを始めるにはいくらの資金が必要?
細かな費用は事業計画によって異なりますが、アパレルブランドを立ち上げる一般的な経費には、生地やその他の材料費、人件費、配送費、光熱費、家賃、設備費などが含まれます。さらに支払い処理、ウェブサイト運営費、マーケティング費、広告費など、継続して発生する経費も考慮する必要があります。
アパレルブランドの名前はどう決める?
ブランド名は、ブランドアイデンティティを象徴するもの、そしてターゲットの心に響くものを選びましょう。Shopifyでは無料のAIビジネス名ジェネレーターを提供しています。アイディア探しにぜひ活用してください。
アパレルブランドをはじめるのに許可は必要?
基本的に許可は必要ありません。古着を販売したり、素材として使用したりする場合は、古物商許可証が必要です。
アパレル起業は儲かる?
アパレル業界は他の業界と比較して利益率が高く、オリジナルブランドで販売した場合、60〜70%の利益率になることもあるため、ブランドをうまく発展させることができれば、儲かる可能性はあります。
文:Taeko Adachi イラスト:ピート・ライアン