ヘッドレスコマースを推す人たちは、導入の利点としてウェブサイトの性能が劇的に向上することや、即座に変更を加えられる圧倒的な柔軟性などを挙げています。一見すると、ヘッドレスコマースの採用は当然の選択のように思えるかもしれません。
ヘッドレスコマースの利点は、ブランドやショップのオーナーが個性豊かで自由なデザインのページを作れるだけでなく、システムを構築する技術者も自分の得意な開発ツールや言語を使って独自の魅力的なオンラインショップの仕組みを作り上げることが可能な点です。しかし、実際にこの方式を導入するのは、宣伝文句で謳われているほど簡単ではありません。また、すべての店舗にとってヘッドレスコマースが最適な選択肢とは限りません。
ヘッドレスコマースに飛び込む前に、この方式は実際にどんなものなのか、十分に理解しておくことが大切です。本記事では、ヘッドレスコマースの可能性を最大限に引き出す方法と、Shopifyが何千ものブランドにどのようにサポートを行ってきたかについて、詳しく説明していきます。
ヘッドレスコマースとは
ヘッドレスコマースとは、オンラインショップの仕組みを、サイト訪問者が目にする表側の部分(フロントエンド)と裏側で動く機能的な部分(バックエンド)に分けて構築する方式です。表側部分と裏側部分が切り離されているため、裏側のシステム構造に影響を与えることなく、表側部分を安全に簡単に変更できるのが利点で、この方式により、ウェブサイトやアプリ、店頭の端末、さらには最新のIoTデバイスなど、さまざまな場所でスムーズに商品情報を提供できるようになります。
多くのブランドがこの方式を好む理由は、従来の一体型システムで作られたECサイトでは難しかった独自性の高いフロントエンドを自由に作り、顧客の購買体験を最適化できるからです。一方、開発者たちがヘッドレスコマースに熱心なのは、システム開発の自由度が高く、最適なツールを組み合わせて独自の仕組みを構築することが可能だからです。
ヘッドレスコマースを導入すると、顧客がブランドと出会うそれぞれの場面に合わせて、最適な見せ方や使い方を設計できます。ウェブサイト、スマートフォン、音声操作、実店舗レジのPOS端末など、さまざまな場所での表示が、裏側の一つのシステムとAPI(ソフトやアプリの機能を連携させる仕組み)を通じてつながります。これにより、成長中のブランドも本格的なオムニチャネル展開や、海外進出を素早く実現できます。
裏側のシステムでは、受注管理や決済などの機能を柔軟に組み合わせることで、ブランドの複雑な運営ニーズに応えられます。システムの構成要素を自由に選べるので、好みのコンテンツ管理システム(CMS)や顧客管理システム(CRM)、デジタル体験プラットフォーム(DXP)を簡単に導入できます。また、特定のベンダーに縛られることもないため、ビジネスニーズの変化に応じて、最適なサービスを柔軟に入れ替えることができます。
ヘッドレスコマースの4つの主な利点
ヘッドレスコマースの最大の魅力は、その柔軟性にあります。オンラインショッピングの世界が急速に進化していく中で、新しい技術やトレンドにすぐに対応できる態勢を整えることができます。しかし、成長中の企業がヘッドレスコマースを選ぶ理由は、それだけではありません。
ヘッドレスコマースの4つの主な利点を紹介します。
1. デザインの自由度が高い
ヘッドレスコマースを採用すると、思い通りの外観や機能を備えたサイトを、既存の枠にとらわれず自在に作ることができます。
一般的には、サイトの表側(テーマやテンプレート)と裏側の機能が一体となった従来型のシステムから始めることが多いですが、これは、素早くオンラインショップを立ち上げて商品販売を始めるのに適しているからです。
しかし、ブランドが成長するにつれ、顧客の行動履歴に基づいてカスタマイズされたさらに高度な機能やコンテンツが必要になってきます。そういった場合にも、機能性の高いテーマやテンプレートを使えば、ある程度のカスタマイズは可能です。例えば、Shopifyのオンラインストア2.0は、開発者向けのツールセットを提供しており、テンプレートの枠を超えて独自の買い物体験を作り出しています。
ヘッドレスコマースが真価を発揮するのは、従来の一体型のシステムでは思い通りのウェブサイトを作るのが難しい場合です。ヘッドレスコマースを使えば、各ブランドはデザインで妥協することなく、好みのツールを使って細かい部分まで自由にカスタマイズできます。
また、ヘッドレスコマースでは、作ったものをすぐにA/Bテストできるので、顧客体験やコンバージョン率を高めることも可能です。
例えば、Shopifyを利用しているOfflimits Cereal(英語)というブランドは、ヘッドレスコマースを採用して自動販売機のような購買体験を作り出しました。これにより、シリアルの購入をゲーム感覚で楽しめる独自の決済プロセスを実現しています。
2. ウェブサイトの動作速度と効率が向上する
ECサイトでは、顧客がサイトを訪れたときに、数秒でページが表示されるようにする必要があります。WebsiteBuilderExpertの調査によると、ページの読み込み速度がウェブサイトの成功を左右する重要な要素だということです。
- スマートフォンユーザーの64%が4秒以内にページが表示されることを期待している
- 消費者の40%が3秒以上待つことなくサイトを離れてしまう
- 消費者の82%がページの表示速度が遅いことが購入決定に影響すると回答している
ヘッドレスコマースを導入すると、デバイスを問わず高速表示が可能なページを作成できます。ウェブサイトの読み込み速度向上は、直接的に売上増加につながります。ページ表示に2〜3秒以上かかると、離脱率が急上昇する傾向があります。
つまり、1日の売り上げが1,000万円のサイトなら、1秒表示を速くするだけで70万円の売上増加につながるということです。逆に遅くなれば、その分売り上げが減ってしまいます。
ユーザーは遅いページが表示されるまで待つのではなく、すぐに別のサイトへ移動します。その行き先が競合サイトである可能性も高いでしょう。ヘッドレスコマースを活用することで、顧客体験を改善し、ページ読み込みの遅さによる興味低下や離脱のリスクを軽減できます。
3. 好みのツールやサービスと連携できる
異なるプログラミング言語で構築された既存システム間では、しばしば重要な連携が困難になります。これは業務効率や顧客サービスに支障をきたす可能性があります。ヘッドレスコマースの仕組みでは、そういった問題を解決し、あらゆるシステムと相性が良いのが特徴です。
ヘッドレスコマースは強力なAPIを駆使し企業資源計画(ERP)、商品情報管理(PIM)、在庫管理(IMS)といった既存の多様なシステムを柔軟に統合します。これにより、開発者は好みのプログラミング言語を用いて、理想的な買い物体験を創出できます。さらに、この方式は技術革新への適応を容易にするだけでなく、各企業が自らのペースで進化し、めまぐるしく変化する取引環境に迅速に対応できるようサポートします。
ヘッドレスコマースは、開発者に自由度の高い技術環境を提供します。必要な機能を積み木のように組み合わせられるため、柔軟なシステム構築が可能になります。例えば、新しい機能が必要になったら、それだけを追加できますし、不要になった部分は簡単に取り除けます。このように、システム全体を大きく変更することなく、必要な箇所だけを素早く更新できるのが特徴です。これにより、常に変化するビジネスニーズに合わせて、迅速かつ効率的にシステムを進化させることができます。
4. 多様な販売チャネルに展開してユーザーとの接点を増やせる
スマートフォンの普及で顧客の購買行動は多様化しているため、ユーザーは「ウェブブラウザで検索してECサイトにアクセスする」といった従来型の方法でだけショッピングをするとは限りません。実店舗やPCのオンラインストア以外にもモバイルアプリやSNSなど、多様な接点を意識する必要があります。
ヘッドレスコマースの大きな利点は、APIを活用してさまざまなチャネルと比較的容易に連携できる点です。従来のECシステムでは、新しいチャネルへの対応に時間とコストがかかりましたが、ヘッドレスコマースならその負担を軽減できる可能性が高まります。各チャネルに既存のECシステムが対応できるかどうかを気にせずフロントエンドの開発に集中できます。
例えば、スマートスピーカーを通じた商品注文に対応したいと考える企業が増えています。ヘッドレスコマースであれば、バックエンドのシステムを変更することなく、音声インターフェースに特化したフロントエンドを開発するだけで対応可能です。
また、InstagramやPinterestなどのSNSプラットフォームが提供するソーシャルコマース機能との連携も容易になります。これらのプラットフォームが提供するAPIを利用して、自社の商品カタログや在庫情報をスムーズに連携することができます。
さらに、実店舗とオンラインストアの融合を推進する場合には、ヘッドレスコマースは有効です。店頭のデジタルサイネージ(ディスプレイなどの情報発信システム)やタブレット端末から、オンラインストアと同じ商品情報やカスタマーデータにアクセスできるようになり、一貫性のある顧客体験を提供できます。
ヘッドレスコマースの導入を検討する際のポイント
ヘッドレスコマースは多くの利点がある一方で、すべての企業に適しているわけではありません。以下のような状況にある場合、ヘッドレスコマースの導入を検討する価値があるかもしれません。
既存の技術環境に課題を感じている
- 確立されたインフラがあるものの、新しいツールの統合が必ずしも簡単ではない
- フロントエンドとバックエンドの調整を同時に行えず、競合他社より動きが遅くなっている感覚がある
ショッピングの際の速度向上を目指している
- 購入者にとって快適な速度でサイトを表示させたい
- パフォーマンスやスピードに影響する機能をもっと細かく管理したい
より独創的な顧客体験を創造したい
- 現在のテーマやテンプレートのカスタマイズではできない独自のページを作りたい
- ブランドならではのユニークな顧客体験を構築したい
モバイルショッピング体験の改善が必要
- iOS/Android向けのネイティブアプリがない、または現状のアプリの使いやすさに満足していない
- モバイルでのショッピング体験をより使いやすいものにしたいと感じている
革新的なストアフロント体験の構築を検討中
- 現在のプラットフォームでは実現できない、独自のEコマース体験を作りたい
- スマートミラー、ウェアラブル技術、自動販売機など、新しい形態の販売チャネルを探っている
コストを考慮する
ヘッドレスコマースを検討する際は、コストと時間を慎重に評価することが重要です。大規模なヘッドレス化プロジェクトの場合、機能性、サポートツール、カスタマイズの程度によっては初期費用が数百万円から数千万円に及ぶ可能性があります。さらに、年間のメンテナンス費用も考慮する必要があります。
一方、アプリを使用してカスタマイズしたオンライン店舗を構築する場合、モバイルアプリ、音声案内、ゲームとの連携などは、月額15,000円程度から始められる場合もあります。
ヘッドレス化のコストは構築するサイトの複雑さによって異なります。開発と実装のコストは一部に過ぎません。外部サービスへの支払い、CMSプラットフォームへの月額サブスクリプション料金、クラウドプロバイダーでのホスティング料金などの費用がかかることも考慮に入れるようにしましょう。
Shopifyでヘッドレスコマースを実現する
Shopifyは、ヘッドレスコマースへの移行を目指す数千もの企業をサポートしてきました。開発者や店舗オーナーは、Shopifyが提供する充実したヘッドレスコマース開発ツールを活用し、短期間で低コストの高品質なカスタム体験を構築してきました。Shopifyのヘッドレス化ソリューションで、適切なツールを自由に選択し、必要な機能を自由に組み合わせ、サイトの機能を拡張し、柔軟性を高めることができます。
Shopifyのヘッドレス化ソリューションには以下のようなものがあります。
- Storefront API:ShopifyのヘッドレスAPIレイヤー
- Hydrogen / Oxygen(英語):Shopifyが提供するヘッドレス化用の技術スタック
こうしたソリューションで、さまざまな規模の企業のヘッドレス化がどのようにして実現するのか詳しく見ていきましょう。
Storefront API
Storefront APIは、Shopifyのヘッドレスコマースプラットフォームの基盤です。顧客体験の実現に不可欠な、以下のようなShopifyの機能を活用できます。
- 高機能のECカートシステム
- 商品・コレクションページ
- 検索とおすすめ機能
- 状況に応じた価格設定
- サブスクリプションなどのB2B機能
Storefront APIは、フレームワーク、デバイス、プラットフォームを問わず利用できるため、開発者は既存のツールを使いつつ、新しい技術も試すことができます。Next.js、Gatsby、Astroなどの開発フレームワークを使用し、好みのホスティングサービスに展開してAPIを持つサードパーティシステムと連携することも可能です。
カナダのオンラインアパレルブランド、Kotnは、ShopifyのStorefront APIとNext.jsを使用して、2つのストアを1つに統合し、新しいCMS(コンテンツ管理システム)、カスタム商品ページ、決済を実現しました。
「Shopifyは当社のニーズの80%をカバーしてくれています。これは他の多くの店舗においてもそうだと思います。残りの20%がヘッドレス化の必要な部分であり、時間をかけて取り組んでいかなければならない部分です。Shopifyが得意とする部分はShopifyに任せ、当社は当社の独自性を発揮する部分に集中することが大切だと思っています。ヘッドレス化について、私たちはそのように考えています」 — Benjamin Sehl、Kotn共同創業者
Storefront APIは、デバイスやチャネル、地域に関係なく、迅速な購買体験を提供します。大規模なセールイベントでも制限なくページを表示でき、世界中に展開されたサーバーにより、常に高速で動作します。
一方、多くの開発者は、効率的に開発を進め、できるだけ早くサービスを市場に投入したいと考えています。そんなニーズに応えるのが、HydrogenとOxygenです。
HydrogenとOxygen
Hydrogen
Shopifyの公式開発スタックには、HydrogenとOxygenがあります。これらのツールで、開発者はShopify上で高性能かつ応答性の高い、拡張性に優れたヘッドレスコマースサイトを効率的に構築できます。
Hydrogenは、Reactベースの「Remix」(英語)というフレームワークを基盤としています。このフレームワークは使いやすさが特徴で、高品質なウェブ開発基準に準拠しています。また、ユーザー体験を向上させる「楽観的UI(処理が完了するのを待たずに最終状態にアップデートするUI)」、「ネストされたルート(ウェブページの階層構造を効率的に管理する方法)」、「段階的機能強化」などの最新機能も備えています。Hydrogenの開発スタックは一定の方針に基づいている一方で柔軟性も持ち合わせています。
例えば、ECサイトの構築に必要なパーツ(コンポーネントやフック、ユーティリティなどと呼ばれます)が、Shopifyのシステム(API)と連携しやすいように最適化され、あらかじめ用意されています。これによって開発者は、ECサイトの基本的な機能を一から作る必要がなく、効率的に開発を進めることができます。
また、スタックの各要素は、互いに最適な状態で連携できるよう調整されています。そのため、開発者は性能や保守性に妥協することなく、迅速にサイトを構築できます。さらに、既存のツールやサービスとも自由に統合できるため、使い慣れた環境を活かしながら開発を進められます。
Oxygen
Hydrogenで作られたオンラインストアは、どのクラウドホスティングサービスでも運用できますが、最も簡単で速い方法は「Oxygen」を使うことです。Oxygenは、Shopifyが提供する世界規模の分散型ホスティングサービスです。このサービスは、世界中に285か所以上のサーバー拠点を持ち、エッジ(利用者に近い場所)でウェブサイトを表示します。これにより、開発チームは完全なデプロイ(サイトの公開)管理が可能になります。さらに、Oxygenは追加料金なしでShopifyの全プランに含まれており、世界中で最高のパフォーマンスと安定稼働を保証しながら、企業のコストを抑えることができます。
最近の例では、PattaとTommy Hilfigerという有名ブランドが、HydrogenとOxygenを活用して、新しいコラボレーション商品を紹介する没入型オンラインストアを構築しました。このストアは、90年代のヒップホップ文化の雰囲気を取り入れた印象的なECサイトで、わずか14日間で構築されました。
これは、世界中の有名ブランドがHydrogenとOxygenを使ってヘッドレスECサイトを構築している例の一部に過ぎません。他にもHydrogenとOxygenを利用したShopifyの事例(英語)は多くあります。
ヘッドレスコマース導入の決め手
長年の実績を持ち、確立されたシステム基盤がある場合でも、あるいはまだ企業向けのシステム構築の途中であっても、本記事で紹介したようなポイントにいくつか当てはまる場合は、ヘッドレスコマースの導入を検討しても良いかもしれません。
事業運営が複雑化し、価格競争ではなく顧客体験の質で差別化を図りたい場合、ヘッドレス化が将来的にベストな選択肢となる可能性があります。
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ヘッドレスコマースに関するよくある質問
ヘッドレス化とは何ですか?
ヘッドレス化とは、ECサイトの表示部分(フロントエンド)と処理部分(バックエンド)を分離することをいいます。これにより、それぞれの部分で迅速な開発やカスタマイズが可能になります。従来の一体型アプローチでは、表示部分と処理部分を同時に開発するため、急な変更が難しいという悩みがありました。
ShopifyはヘッドレスのCMS(コンテンツ管理システム)ですか?
ShopifyはヘッドレスのECプラットフォームです。出店者は他社のアプリケーションを使って表示部分を構築し、ShopifyのGraphQL Storefront APIを通じてデータを取得できます。このAPIを使えば、独自の決済フローの設計や実装、税金や関税、割引を含む概算合計を表示できるカート機能の構築も可能です。
ヘッドレスコマースを始めるにはどうすれば良いですか?
まず、現在のECプラットフォームを継続するか、変更するかを決めます。 その後、ヘッドレスCMSを選び、次に CMSとAPIを連携させます。 コストとかかる時間についても忘れずに検討しましょう。
文:Yukari Watanabe